老化制御デザイン演習

【開講の目的】

 新領域創成科学研究科は、学融合を通じて新たな学問領域の創成を目指した教育研究を志向しています。現代社会の要請とその変化に対応して、人類が解決を迫られている課題に果敢に挑戦するとともに、領域横断的な視点と高度な問題解決能力を有する人材を養成するにあたり、複数のスキルを身に着けた人材を養成する必要があります。21世紀の人類が直面する大きな課題として、少子高齢化問題があります。我が国は全世界の中で最も高齢化が進んでおり、すでに認知症患者の急増を含めて多くの社会問題が発生をしています。これらの諸問題を解決することができる人材を養成するためには、必要となる科学や技術の知識を身に着けるとともに、工学的な素養や数学的な分析能力を併せ持つ、分野横断的な思考ができる人材を育成することが必要となります。新領域が志向する分野を横断する思考スキルを身につけた、人材を養成するための一つのモデルケースとして、本演習科目を開講しました。演習の目的として、生命の生存戦略の解明に基づいて健康寿命を延伸させる原理の理解と、老化を制御するためのデザイン的思考を習得させることによって、課題解決型の人材を養成します。

科目名称: 老化制御デザイン演習 (Seminar in Aging Control Design)

開講日時: A1A2ターム 

(10/16, 10/23, 10/30, 11/6, 11/13, 11/20, 11/27 月曜5限)

(12/4 生命棟, 12/11 環境棟・産総研, 12/18 UDCK 対面実施)

担当組織: 先端生命科学専攻、 メディカル情報生命専攻、 人間環境学専攻、複雑理工学専攻、本郷・定量生命科学研究所

背景:

1)ライフサイエンスの分野において、生命の生存戦略を解き明かすために、2008年にオーミクス情報センターを開設し、ゲノミクス、メタゲノミクス、エピゲノミクスなどのオーミクス研究を先導してきた。2009年には、バイオイメージングセンターを開設し、酵母からサルに至る様々な生物種で、細胞あるいは組織・個体の応答状態を可視化して、画像化する研究を展開し、ライフサイエンス分野の発展に貢献をしてきた。そして、開発された技術のスピンアウトによって、国内有数のバイオ系ベンチャー企業の設立が相次いだ。

2)環境学の観点から、2006年アーバンデザインセンター柏の葉(UDCK)が開設し、2009年にはフューチャーセンター推進機構を設立して、柏市との連携が深まるとともに、柏の葉スマートシティーへと展開した。2005年生涯スポーツ健康科学研究センターが開設し、スポーツと健康に関する実践的研究を行い、さらに高齢社会総合研究機構と連携してフレイルや認知症の発症リスク判定技術の開発が進んだ。

3)ヘルスサイエンスの分野において、生命科学と環境学分野の融合により、分子から個体レベルに広がるゲノム科学に基づく健康知見の集積を、VRやロボット工学に基づく人間支援技術の開発につなげていくためには、複雑理工学分野における数理モデル研究のノウハウを活かして、老化制御に関する数理モデルを構築する技術開発が必要であり、この分野横断的な学問領域の推進に携わることができる人材の育成、養成を行うことが求められている。

4)将来的な社会実装やイノベーション創出を目指して、柏の葉スマートシティーと連携して、実際的な社会実験を取り入れて、「誕生から健康百寿まで」を網羅するAI技術を活用したライフステージ一貫型健康支援システムの構築に携わる人材の育成を行う。

期待できる成果:

1)高齢化社会の進展において、健康寿命を延伸させる技術を確立することが喫緊の課題であり、老化制御に携わる人材の発掘・育成を行うという社会の要請に応えることができる。

2)柏の葉のフィールドにおいて、修士課程から博士課程の学生において、当研究科が推進する分野横断的な思考を身に着けるとともに、社会課題解決のための実践的トレーニングが実施できる。

演習における教育理念と基本方針:

 本演習を設置する目的は、酵母からマウス、サル、ヒトに至る様々な生物種における生命体の生存戦略の解明と理解に基づき、健康長寿支援を実施するに当り必要となる老化機構とその制御の方法を知ること。そして、疾病リスクの予測や予防的介入をその対象を、高齢者から若い世代まで拡張し、ライフステージで一貫したものにするために実践的な教育を実施することにある。このために生命科学的アプローチの成果と人間環境学的アプローチの成果を共有・統合することによって、介入効果・疾病リスク予測結果精度向上や予測モデル・介入手法の科学的な解釈を可能とするための教育を実施する。実践的な課題の設定と実証のためのデザインを行うことによって、問題解決のための即戦力となる人材を育成する。

担当教員

久恒辰博、中山一大、大矢禎一(先端生命科学専攻)

合山進(メディカル情報生命専攻)

割澤伸一、持丸正明(人間環境学専攻)

郡宏(複雑理工学)

小林武彦(本郷・定量生命科学研究所)

新設科目「老化制御デザイン演習」の内容と特色:

 超高齢社会の進展に対処するために、加齢に伴い進行する心身の老化を制御する新しい技術の開発が求められている。当該技術の開発においては、複数の学問分野の英知を結集する必要があるが、現在、この教育研究を実施できている教育研究機関はなく、当該分野の開拓に必要な人材の養成が十分には行われていない実情がある。新領域創成科学研究科では、その設立以来、社会問題の解決に資する人材の養成を行っていくために異なる学問分野を跨って融合的な教育を実施することを標榜してきた。そこで、本演習においては、これまでに老化制御に関連した教育研究を行ってきた、複数の専攻に所属する教員が、履修者に対して、まずは、老化制御のデザインに必要な基礎的知識について概説を行い、引き続き、研究室における模擬的実習や、演習を行う中から、個人のアイデアに基づいて、老化制御に関するデザインを行う演習を実施し、その成果をシンポジウムなどにおいて発表する、一連の教育を行うことにより、人材の養成を進める。

演習の前半部分を占める座学についての解説:

 老化制御の基礎的知識ならびにそのデザインに関する概説を、複数の教員により実施する。老化制御に関する研究手法についての理論的背景や、その応用例について最新の知見を交えて詳説する。生命科学分野・人間環境学分野、さらには数理モデルに関しての研究デザイン・解析手法の適用限界についても議論し、いかにして健康長寿に結び付ける技術が構築できるか、その実践例について個別に詳解する。加えて、必要に応じて、本学の他部局の教員や企業における研究担当者なども講師として迎え、実施例に基づいたこれまでの最新の事例、さらには最近の開発の基本的な概念と実際を紹介すると共に、その課題を明らかにする。(基本的にオンラインでの実施を予定)

演習の後半部分における体験型学習についての解説:

 将来的な社会実装やイノベーション創出を目指して、柏の葉スマートシティーと連携した実際的な社会実験を実施することを念頭に、老化制御に関するデザインを模擬的に構築するための演習を実施する。履修者は、座学として受講した前半部分の学習内容に基づいて、必要に応じて専攻分野に応じたグループを形成して、各研究室における研究室見学を始めとして、模擬的な実習や演習、さらには関連企業におけるインターン実習などを通じて、老化制御デザインに関する実地的な訓練を受ける。老化制御デザインのプラニングにあたっては、生命科学に基づく老化制御の理論的な部分に、人間環境学や複雑理工学における装置開発や数理モデル構築の知見を組み合わせることによって、各履修生が自身の発想により構築した第一デザイン(素案)を、社会実装が可能な完成系へとブラッシュアップさせていく。演習の最後半においては、個人あるいは各グループによるデザインの発表を行い、グループ内、さらには全体で議論を行う。デザインのプラニングにあたっては、必要に迫られて数理モデルを書籍で独学せざるをえなかったり、老化制御に関する基礎知識や装置設計の知識が不足していたりと、各種の困難に直面することが予想される。本演習では履修生が躓いたポイントを調べることにより、必要と思われる基礎知識をフィードバックさせることにより、演習での教育体制や教材をブラッシュアップさせていくことで、生命科学やIT分野の予備的な知識が浅い履修者であっても、老化制御デザイン研究に必要なスキルを独習できる教育を実施する。(対面での実施を予定 12/5 生命棟、12/12 環境棟柏Ⅱ、12/19 UDCK)

参加学生数の見込:

 新領域を中心に本学の大学院生を対象者としている。将来的には、外部の社会人であっても、履修可能な環境を整えていくべきであると考えている。当面は、演習が実施可能なスケールを保って開講をしていく。

その他:

 今後、研究科内のさらなる連携や、学内連携、大学・他機関、関連企業などへの周知活動のためにイベント(成果発表会・シンポジウム)を合わせて実施することを計画している。